■12月7—10日 福岡モーターショー■
「倒れるときは前のめりに倒れるから、付いて来てほしい」。十一月六日、中国・大連。金型・鍛造部品メーカー九州柴田フォージング(福岡県朝倉市)社長柴田福生(60)は、中国人従業員を集めて力を込めた。中国の自動車産業への参入を狙い、これから大掛かりな市場調査に乗り出すのだ。
十二月まで一カ月半をかけ、東北部の瀋陽、長春を皮切りに、北京、天津、さらには青島、上海、広州まで中国沿岸部のほぼ全域を回る。取引先となりそうな日系、欧米系のメーカー約三十社を訪問する予定で「この調査で参入のめどを立てたい」と柴田は語る。
柴田が大連に子会社、大連柴田精密機械有限公司を設立したのは二〇〇一年。日本国内の事業が伸び悩んでいたころで、中国進出で収益確保を狙った。しかし「具体的な事業計画があったわけではない」(柴田)。設立後五年は赤字が続き、進出のメリットを見いださないまま現在に至る。
「会社を存続させるには、事業拡大が不可欠。それには中国のクルマに参入するしかない」。そうした危機感が、柴田を突き動かす。
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だが、柴田はいまも、中国事業に確たる“勝算”を持てない。
中国でも「クルマ」への参入には、設備や人員面での投資が必要で、親会社にとっても大きなリスクが伴う。大連では二年前、三億円を投じてプレス設備を一セット設置したが、一セットでは故障した場合、製品を納期内に納められない恐れがある。取引先の信用を得るには、設備を増設する必要がある。
そのリスクを負う覚悟があっても、原材料となる鉄鋼材の調達が問題だ。一般的な中国材は現時点で品質が低いため、車部品に使えない。中国内で調達しないと、利益を出すのは難しい。日本から運び込むと、物流コストなどがかさむのだ。
中国では、住友金属小倉(北九州市)などが、中国資本に技術供与する形で高品質鋼材の開発に取り組んでいる。柴田はこれに期待をつなぐしかないが、住金小倉によると「実用化にはまだ数年はかかる見通し」だ。
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十月二十三日、福岡市内のホテルで、中国東北部の自動車生産拠点、長春市が投資セミナーを開いた。「長春には大きなビジネスチャンスがある」。長春市商務局幹部が熱っぽく呼び掛ける。中国側としても、九州の高い技術力を取り込み、産業のレベルアップにつなげたいのだ。
セミナーには、九州の部品メーカーの担当者ら約四十人が参加し、中国への関心の高さをうかがわせた。だが、九州から中国に進出する自動車関連企業はまだ少ないのが実情。ある地場企業幹部は「拡大する九州の『すそ野』に食い込むのに精いっぱいで、中国どころじゃない」とこぼした。
九州柴田フォージングにしても、九州での自動車関連受注は売上高の2%にすぎず、その拡大は大きな課題だ。それでも、柴田が中国にこだわるのは「中国人の人材が育ってきたから」だ。
柴田は十数年前から、中国人研修生を受け入れ、育成した人材を大連でも雇用している。その代表格が、一九九五年に研修生として来日し、現在は大連で副工場長を務める李玉剛(40)だ。
「当社の技術力があれば、中国でも十分やっていける」。そんな李の言葉が、柴田を奮い立たせる。九州企業の社運をかけた挑戦が、大陸を舞台に始まっている。 (敬称略)