12月7—10日 福岡モーターショー■
三輪タクシーと乗用車、バイク、歩行者で埋め尽くされた、車線も信号もないでこぼこのアスファルト。クラクションが鳴りやまない。標高約九百メートル、気温は二二度前後と快適なはずなのに、無秩序な渋滞とけたたましい音に、顔が火照り、暑苦しさをもよおす。
インド南部の都市、バンガロール。だが、インド最大の情報技術(IT)企業、タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)の広大な敷地に入ると、喧騒(けんそう)は次第に遠のいていった。
緑の芝生がまぶしい。中庭に満々と水をたたえた人工池と噴水が見える。若い社員が誇らしげに説明し始めた。
「秘密保持のため社名は明かせないが二年前から日本の自動車メーカーの組み込みソフトを開発しています」。百五十人超の技術者がエンジン部分やエアバッグなど自動車の基幹部品を制御するソフトウエアを開発しているという。
日本のシンクタンクなどでは、国内の自動車メーカーは「命にかかわる基幹部品は、海外に発注しない」といわれてきた。日本語で打ち合わせできなければ微細な部分が詰められず危険と考えている、とみられてきた。
だが卓越したインドの技術力は、そんな「定説」を、とっくの昔に吹き飛ばしていた。
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BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)と呼ばれる新興工業国に数えられるインド。年率9%超の成長をけん引するのが、IT産業だ。
TCSと同じくバンガロールにあるインフォシス・テクノロジーズは、マイクロソフトやIBM、エアバスなど顧客企業ごとにガラス張りのビルを丸ごと一棟提供し、集中的に開発に励む。ビル建設には月々の賃金が約三千−一万ルピー(約九千−三万円)と安い建設労働者を大量に動員する。
英語が公用語で数学に強いインドの人々は、米西海岸にあるシリコンバレーを支えてきた。十三時間半の時差があり、米国が眠っている間の仕事を担ってきた。インドのIT産業は、シリコンバレーと足並みをそろえて発展し、技術者は今や百六十万人を超える。日本の五十七万人をはるかに上回る分厚い人的資源が蓄積されているのだ。
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そのインドに十一月十八日、福岡市経済振興局長の渡辺正光(54)を団長とする同市の訪問団(八人)が降り立った。
「参入のハードルが高い日本の自動車産業に、インド企業が中枢部にまで食い込んでいるとは」
TCSで説明を聞いた団員の一人、福岡県などが出資する福岡システムLSIカレッジ副校長の平川和之(67)は、驚きを隠さなかった。同時に九州の自動車産業がインドの「頭脳」と手を組めば、競争力は飛躍的に高まる、と感じた。
日本の大企業は既に、インドのIT企業と結び付きを強めている。
日立、東芝、コマツ…。チェンナイにあるL&Tインフォテック本社には、フロアごとにソフト開発受注先の企業名を日本語で書いた看板が掛けられていた。
トリバンドラムにあるネスト本社には、日本人の男性がいた。東芝の子会社に四月に入社したばかりの新人だ。世界最先端のソフト技術と英語を研修中だという。
「まさかインドに派遣されるとは思いませんでした」
名だたる日本のメーカーが、インド詣でを始めている。 (敬称略)
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アジア各地で自動車産業が勃興(ぼっこう)し、市場としての魅力も急速に高まっている。九州に集積する自動車産業がアジアとともに成長するにはどんなシナリオがいるのか、大陸を歩きながら考えた。